ペインクリニックて何をするところ?

「ペインクリニック」という診療科は、残念ながらその名称からはどんな疾患が対象なのか分かりません。現行医療法では「ペインクリニック科」をそのまま看板に書き込む(=標榜する)ことはできず、「ペインクリニック内科」、「ペインクリニック外科」、「内科(ペインクリニック)」あるいは「ペインクリニック整形外科」等でなければならないことになっています。中村ペインクリニックでは、「ペインクリニック内科」を選択しています。

 

言葉の意味合いからいうと、「ペインpain」は「痛み」で、「クリニックclinic」は「診療施設(病院や診療所のこと)」ですから、「ペインクリニック」は「痛みを診る病院」となります。けれど、「割れるような頭痛」なら脳神経外科を、「死を予想するような激しい胸の痛み」なら循環器内科を、「背を伸ばせないような腹痛」なら消化器内科(あるいは外科)を、横になっても痛みが和らがない背部痛は胸部心臓血管外科を、「転倒や落下・衝突などによる外傷」では整形外科を、先ず受診した方がよいでしょう。

 

 

どんな痛みに効果があるの?

神経内科や脳神経外科で治療を受けているのに治らない頭痛、耳鼻咽喉科で治らない顔面痛、循環器内科や胸部心臓血管外科で治らない胸部・胸背部痛、消化器外科・消化器内科(胃腸科を含みます)で治らない腹痛、整形外科で治らない頸肩腕部痛・腰下肢痛・股関節部痛・膝関節部痛の他、痛みを伴う帯状疱疹や帯状疱疹の後に残った神経痛、抜歯後の痛み、手術創部の痛みなどはペインクリニックなら治る場合があります。

 

特にどこか他の診療科を受診してからでないとペインクリニックを受診できないという訳ではありません。近年は口コミの他、インターネット検索や新聞・雑誌の記事をご覧になって、初診からペインクリニックを受診される方も増えてきました。

 

どんな治療をするの?

 

 ペインクリニックという医療分野は、基本的には「神経ブロック」という注射が有効と考えられている疾患を対象に診療しています。痛みを伴わない疾患でも、顔面けいれんや顔面神経麻痺、めまい、四肢のけいれん、ほてりや冷え等、神経ブロックが有効なものは診療対象になります。一般の方には今ある症状がペインクリニックに適応するかどうかは分からないと思いますので、当院なりに電話でご相談下さい。外来診療をしている麻酔科のある病院なら相談に乗ってくれると思います。

 

ペインクリニックは、整形外科が診療する運動器(筋肉・骨・関節)疾患も扱いますが、整形外科が骨・関節・靱帯から治そうとするのに対し、ペインクリニックでは神経・血管・筋肉(特に、筋肉)を正常化しようとします。この基礎理論になっているのが「痛みの悪循環」です。

 

痛みの悪循環について

「痛みの悪循環」は上図のような概念ですが、大まかには「痛みが発生する→神経が興奮する→血管と筋肉が収縮する→血液循環が悪化する→痛みがさらに増強する」というものです。痛みは、痛みの刺激に反応した神経と血管と筋肉が形成し、悪化させているのです。

 

痛みの悪循環を断つには?

考え方として大切なのは、「痛みの原因がどこにあるのか」ということです。

 

例えば、腰が痛くて整形外科を受診し検査をしたら「椎間板ヘルニア」と診断されたとします。腰やあしが痛くなる病気の代表格(実際は、腰痛の1位は原因がはっきりしない「症候性腰痛」ですが)であり、典型例では神経走行に一致した強い痛み(=根症状)と間欠性跛行(かんけつせいはこう:痛くて歩行困難になり、休むとまた歩けるようになることを繰り返す)が見られます。

 

整形外科では、画像診断(レントゲン写真やCT・MRIなど)でどこに見た目の変化(器質性変化:きしつせいへんかといいます)があるかを探り、椎間板ヘルニア自体あるいはそう思われる所見を見つけたら、それこそが痛みの発生源であるかのように説明します。

 

しかしながら「椎間板ヘルニア」で見られる痛みは、ヘルニアとなった(=飛び出した)椎間板から生じたのではありません。教科書的には腰部(脊柱管内)での神経の圧迫によって起こる神経痛といわれていますが、実際は、神経痛と筋肉痛の相乗作用の結果なのです。神経痛については、前は飛び出してきた椎間板に、後ろは硬くなった筋肉(椎骨(脊椎を形成している骨)の並びを整え、脊椎(=背骨)を立たせている)や椎弓(椎骨の後ろの部分)に挟み付けられ、周りは血行の悪化によってうっ血した組織に圧迫された神経の叫びです。神経を人々の日常活動に置き換えていうなら、満員電車で押し合いへし合いしてイライラしているような状態です。これに対し、筋肉痛は、圧迫されてくたびれた神経に酷使された筋肉が発する「どうにかしてくれ!」という叫びです。筋肉は、普段は緩んでいて仕事するときだけ緊張しますが、普段から酷使されてヘトヘトになってくると、命令がないときも緊張した(=縮んだ)ままになってしまいます。神経という先生にしごかれた上、結果が出せずに「廊下で立っとれ!」といわれ、気をつけして立たされている生徒に似ています。痛みを取るためには、挟み付けられて興奮した神経をなだめ、血管を広げてうっ血を解消し、筋肉を柔らかくしないと解決しません。

 

 

 

画像診断ではわからない痛みの原因

筋肉が硬くなっているという所見は画像診断では見つかりません。レントゲン写真では、筋肉はその輪郭しか写りませんし、CTやMRIでは筋肉は写っていますが正常な部分と全く変わりません。けれども、触ればすぐ分かります。

ゆがんだり、変形した骨の写真を見せて「こんなに形が悪いんだから痛いはずだ」と説明されますが、教科書には「画像所見と症状には相関がない」と明記してあるのです。ヘルニアが見つかったからすぐ手術を勧めるのかというと、そうでもない場合が多く、薬物療法(飲み薬[大概は、鎮痛薬と筋弛緩薬とビタミンB12]や湿布を処方される)で済まされます。薬を飲んだだけで飛び出たヘルニアが引っ込んで元に戻ることはありません。

 

椎間板ヘルニアはハンバーガーを上下から押したように中の具が飛び出した状態です。骨(椎骨)を上下から押して椎間板を飛び出させているのは骨の横を縦に走っている筋肉なので、それをほぐせば、直ぐなら飛び出しが戻ります。飛び出しが戻らなくても、後ろの筋肉の壁が緩んだり、周りのうっ血がとれて居場所が確保されれば、神経はイライラしたり叫んだりせず平常を取り戻すでしょう。

 

ヘルニアがないのに坐骨神経痛が生じている場合もあります。足の筋肉の使いすぎ(打撲など外傷による場合もあります)で生じた筋拘縮が、その筋肉に来ている神経を牽引する(=引っ張りつける)ことによって神経痛症状を呈します。筋拘縮を起こしている筋肉には圧痛(=押さえると痛いという感覚)があります。足の筋肉(特に大腿の外側の筋肉)の拘縮を解除してやらないと痛みは取れません。

 

もっと早期では、足の筋拘縮が神経痛ではない痛みを起こしています。これも神経痛として治療されていることがありますが、この段階では「筋筋膜性疼痛症候群」によるいわゆる筋肉痛なので「神経痛の治療」は無効です。筋肉をほぐす治療が最優先されます。つまり、腰が痛いのだけれど、足を治さないと(=ほぐさないと)腰の痛みは取れないことがあるということです。

 

痛みの原因がどこにあるのか... 上記しましたように、腰が痛いときに、足を治さないと腰の痛みが取れないこともあるし、肩が痛いとき、それが頸からなら、頸を治さないといけない。膝は大概、その内側が痛くなりますが、治すのは、内側のもっと付け根の方のこともあれば、大腿の前の方のこともあれば、大腿の後ろのことも、下腿(スネ)を治さなければならないこともあるのです。

 

ペインクリニックでは神経ブロックに局所麻酔薬(局麻薬)を用いますが、それは局麻薬に神経を休ませ、血管を拡張させ、筋肉を弛緩させる作用があるからです。

 

 

ペインクリニックの考え方(アプローチ)

 ペインクリニックは、診療科として確立してようやく半世紀が経ったところです。外来での診療形態も施設によって幾分ばらつきがあります。

 

中村ペインクリニックでの一般的な治療の流れは、問診〜消炎鎮痛処置(いわゆる電気治療)〜神経ブロック(神経を休ませ、血管を広げるために行います)〜局注(筋肉やそれを包む筋膜の過緊張をなくすために行います)〜安静(十分に注射の効果を引き出すためにベッドで休みます)です。有効と思われる場合は、静脈注射や点滴によって薬物療法する場合もあります。近年、神経痛、筋拘縮、しびれなどの異常感覚、血管拡張(組織の新陳代謝を促します)に有効な薬剤がいくつか開発されており、神経ブロックの効果を増強させるため、あるいは注射を受けたくない方には注射の代用として処方しています。透視下神経ブロックは行っていません。

 

ペインクリニックは、原因が複数の診療領域に渡る痛みの治療を目的にアメリカで生まれ、ベトナム戦争の傷痍兵の治療によって進歩しました。日本では、麻酔科医による痛みの診療分野として誕生・発展してきました。手術の麻酔の方法には全身麻酔法と局所麻酔法とがありますが、全身麻酔法からは救急医療(ER)や集中治療室(ICU)での医療が、局所麻酔法からはペインクリニックが派生・発展しました。

  

診断学的治療について(まず痛みを取り除くことから)

ペインクリニックの診療が他の診療科と最も違うところは、「診断学的治療」が原則だということです。西洋医学は基本的には「先ず検査して病巣を確定してから治療法を決める」という手順を踏みますが、ペインクリニックは「(痛みの)原因はともかく、受診した時点で、痛みを取り除くのに最も有効と思われる方法を先ずやってみて、その反応を見てその後の治療法を決めていく(一旦治療した後も痛みが残ったり繰り返したりするときには、必要と思われる検査をして根本的な治療法を確定する)」という方法を採ります。

 

漢方医学に例えると、最初の「先ず今悩んでいる痛みを取る」部分は「異病同治(違う病気を同じ治療法で治す)」の考え方で、その後、同じ治療法を継続する(繰り返す)場合もあれば、治療に対する反応や検査結果から治療法を変更する場合もあり、その場合には「同病異治(診断名が同じなのに違う方法で治療する)」となることもあります。

 

受診する方は第三者的(ある意味で、傍観者)になってはいけません。受診するあなたと私どもスタッフが一緒になって治す(=病気やけがに取り組む)のです。治療のために、生活上、場合によっては仕事上でも、制約や努力が必要になることがあります。それは「協力」ではいけません。「参加(活躍、かも知れません)」しないといけないのです。

 

また、受診する方は評論家になってもいけません。治療は「共同作業」なのです。そのためにも、受診者が治療方法を設定しないことが重要であり、早く治るためのコツでもあります。

 

いろいろ手段を講じても快方に向かわない場合もあることは、ご承知おき下さい。私の方から他科受診や手術を勧める場合ももちろんあります。


 

ここまで読んでいただいて、受診しようというお気持ちになっていただけたでしょうか。

受診については、「案ずるより産むが易し」です。いろんなことを心配せず、一度受診してみて下さい。